東洋医学の病因について
東洋医学の疾病観は、「ながれ」の変動に注目しました。
そして、その変動を起こすものには、身体の外部・内部の急激な変化があると考えました。その変化が強いと、それが「ながれ」である気血や経絡を大きく変動させ、さらに内なる「かたち」である臓腑や、外なる「かたち」である皮膚・筋・目耳鼻などにその影響が及び、それが疾病に繋がると考えたのです。
つまり、その変化が疾病の原因であり、そのことにより身体はその外部や内部の変化に対して、
気血が多く集まった実(じつ)、
気血の量が減り、働きが低下した虚(きょ)、
という状態に変動することがわかったのです。
では、身体の「ながれ」に影響し、疾病の原因となる外部・内部の変化とは何でしょうか。
外因と内因、そして不内外因
外部から影響する変化、それは気候によると考えました。
空調の管理が可能な現在では古代に比べれば全く感じ方が違うと思いますが、外部から影響するもの=外因として東洋医学では考えました。 そして、その変化を以下のような名でまとめました。
風、暑、湿、燥、寒
風>あたる場所で体温がとられるため、そこに気が集まると考えた。
暑>全身、特に上半身や体表に気がめぐり過ぎてしまうと考えた。
湿>量が増え血を動かしにくくし、水分が特に下半身に集まると考えた。
燥>体表の水分を減らすと考えた。
寒>気血のめぐりを停滞させ動きを遅くさせると考えた。
内部で影響する変化、それは感情から、と考えました。
最近はストレスという言葉が頻繁に使われ、精神的に受けた影響とかなり同義となっているようですが、東洋医学では2000年以上も前に、身体の「ながれ」を内部で変化させるもの、つまり感情が内因となりうると考えたのです。
怒、喜、思、憂、恐
怒り>怒りすぎると気と血が上半身に上がる状態となる。
喜び>喜びすぎると気と血が全身にめぐり緩んでいる状態となる。
思い>思いすぎると気血のめぐりが解きほぐせなく停滞する状態となる。
憂い>憂いすぎると気血が下半身に落ちていく状態となる。
恐れ>恐れすぎると気血が失われ抜けたかのような状態となる。
その他、飲食、労働、外傷など食事や行動も病因となると考え、これらは不内外因と呼び、
飲食は大地から取り入れる栄養で、人は最初にそれを味として感じるため、その味を基として身体への影響を考えました。また、労働においては日常生活の特別な姿勢の持続による身体への影響も考え、それも病因となるとしました。
疾病の分類
身体の「ながれ」や「かたち」への影響を中心に考えた疾病は、さらに、その影響される部位によりいくつかの分類が示されますが、鍼灸治療で特に重要なものは次の4病証です。
八綱病証、気血津液病証、経絡病証、臓腑病証
八綱病証とは身体の疾病を陰陽論に基づいて多角的に分類するものです。 疾病の影響された部位により表証か裏証、気血や臓腑がどう影響されたかで虚実、そして、疾病による身体の反応から寒証か熱証、を判断し、この2×2×2の八通りの分類、それが八綱病証です。
そして、影響される部位として、気血津液病証とは、身体を流れる気・血と津液(水分の総称)の全体的な変化から疾病をまとめたもので、それぞれの虚実を病証として分類したものです。
虚は、それぞれの量の低下と働きが維持できにくくなったものであり、気虚・血虚・津液虚損があります。実ではそれぞれの流れに滞りがおこっており、気滞・瘀血・痰飲があります。
次に、経絡病証は、経脈や絡脈の変動、あるいはその部位の問題から起こる症状を取りまとめたものです。
更に、臓腑病証。臓腑、特に臓に病が生じると、重い症状を示しやすい。それぞれの臓の虚実がどのような症状を示すか、これに対しても東洋医学では系統的にまとめています。
ということでここでは以下に、この臓腑病証を臓の働きからまとめてみました。 因みに病証の分類には、疾病の状態や病期を中心に考えた分類=三陰三陽病(これは主に漢方医学(湯液)で発展し重視されています)などもあります。
臓の機能から病証へ
東洋医学の臓腑は西洋医学の臓腑とは一致したもの、というわけではありません。そこで、その機能の東洋医学的見方を簡単に説明しながら、それに伴う病症をみてみましょう。
肝について
1)蔵血、つまり血液を貯えて、血の全身への供給と血量を調節する機能。これが、東洋医学で言う肝の働きであり、この働きができなくなると、血が不足することで血虚証の症状を示します。
筋肉では肢体のひきつり、しびれなどがみられ、また、眼では視力減退や眼のかすみ、婦人の場合は月経血量減少や無月経、精神面では多夢・不眠など
肝気の実:肝の血を排出する力が余り、その余った気が胸脇に停滞あるいは熱を帯びて上昇して様々な症状を示します。
胸脇苦満、胸脇部・乳房部・少腹部の脹満、月経痛、痰飲形成、水腫、精神抑鬱、太息(ためいき)や急躁(イライラ)、易怒(怒り易い)など
2)筋、目、涙、爪との関連があるため、その部位の症状と、蔵血できない場合、出血症状を示します。
吐血・衄血や婦人の場合は月経過多・崩漏など
心について
1)血脈を主る。これは、心が拍出し、脈を運行させている作用をさします。心の働きが低下すると血が少なくなる症状を示します。
心悸、不眠、健忘、多夢、胸悶、胸痛、気短、脈空虚 など
2)神明を主る。神明とは人の精神・意識と思惟活動などの活動。心の働きに低下は、血が神を滋養しない症状を示します。
精神活動、また言語に異常をきたし、心煩、不眠、健忘、多夢、 譫語、精神・意識障害など
脾について
1)肌肉を主る、つまり、栄養物(=営)によって身体の形とその機能を発揮。この機能が影響されると、主に栄養低下の症状を示します。
全身倦怠,味覚異常,食欲減退、腹が張る、体がやせる、顔面萎黄、無気力、脈細弱、口渇 悪心・嘔吐、しゃっくり、腹部脹満、腸鳴、 便溏、食欲減退など
2)口、涎(唾液中の希薄な液体)に関連。
3)津液の調整。内蔵を引き上げる。血管を固める。
水腫,痰飲形成,帯下,下痢,腹水 眩暈,精神疲労など
脱肛,内臓下垂,子宮下垂など
血便,血尿,崩漏,皮下出血,月経過多など
肺について
1)気を主る。肺が自然の「清気」の吸入と、体内の「濁気」の排出を指す。そのため、呼吸に関する症状を示します。
咳嗽、喘息、呼吸困難、呼吸無力など
2) 体内の水液の散布・運行・排泄という水分のながれを調節。「水の上源」とも呼ばれ、特に上位の水分の調整に関する症状を示します。
痰飲の形成、水腫、胸悶・咳嗽・気喘・喀痰など
3) 鼻、涕に関連。
鼻閉、流涕、鼻炎、咽喉の炎症など
腎について
1)蔵精、親から受け継いだ気。発育成長と生殖機能が営まれる。腎精が不足の症状。
乳幼児期であれば発育に、思春期であれば性の成熟課程に、壮年期であれば性機能に、老年期であれば老化に影響を及ぼす。発育不良(五遅・五軟など)、不妊、精子不育、遺精、陽痿、生理不順など
2)主水 、つまり脾や肺とともに全身の水液代謝を調整。「水の下源」と呼ばれる。気化作用の低下があると主に下位の水分調整に関する症状を示します。
尿量減少や小便不利、水腫、夜間多尿・頻尿など
3)耳や骨→腰に関連。
耳鳴、難聴、足腰がだるい、腰痛など
4)納気、つまり吸気作用に関与。
呼吸過多・吸気困難,息切れ、気喘、呼吸が浅いなど
身体をベースにして、環境の変化からこころが生まれ、こころが行動を生む。
つまり、東洋医学的に考えると、身体、つまり「かたち」や「ながれ」と環境を整えることが、こころや行動を豊かにするともいえるかもしれませんね。
身体と環境、大切にして参りましょう。