身体に「ながれ」がある 

さて、これから東洋医学的な身体観をみていきたいと思います。

東洋医学、といいましても、それは2000年以上前に中国で編纂された、「黄帝内経素問・霊枢」の文章を基にします。

そこでは、身体は自然が反映されたものと考えられ、自然に風や川など様々な流れがみられるように、外見からはみえませんが、身体の内部にも全身をめぐる動き、つまり「ながれ」があることに注目しました。

その動きが止まったとき人は命を失い死となる、古代中国ではそのように考え、内部に隠されたその動き、つまり「ながれ」に生命の本質が宿るとし、その体表への現れとしての脈拍と、脈拍を与えている心の臓が生命の中心と考え、死とは心の臓が止まること、としたのです。

そして、

「ながれ」るものに、気と血。
「ながれ」る場所に、脈、つまり経と絡。

このような名を付けていきました。

 

 

「ながれ」るもの、気・血

気とは、「黄帝内経」が編纂される遥か以前に、同じ中国でつけられた呼び名なのですが、ある特定のものにではなく、自然のなかでなんらかの動きがあったり、あるいはそれを伴うようなことについて名付けたものでした。さらに、その気が集まって生命が生まれ、その気が散ると生命は失われるとも考えました。

ですから、動きが有れば様々な「もの」や「こと」に「気」という言葉が付けられました。例えば身体においては、生命が生まれる、生活し成長する、子孫を残しやがて消滅するということが起こります。その過程では、そこで営まれる様々な機能がみられますが、これらの動きの現象や機能を気の働きと捉え、それぞれに気という名を付けて使うようになったのです。そして、脈気、心気、胃気、臓気、原気、宗気、衛気、栄気など、様々な言葉が作られました。

気の働きは五つ

東洋医学は、気の働きとしての身体の機能を、次の五つに総括しました。

1、物を働かせる、移動する :推動作用
> 身体の移動、栄養を分配するなど

2、物を変化させる     :気化作用
> 飲食物の消化、尿の生成するなど

3、物を温める       :温煦作用
> 体温の維持、気化をする力など

4、物が溢れないようにする :固摂作用
> 出血防止、尿漏れ防止など

5、物が侵入しないようにする:防御作用
> 細菌感染の防止など


身体においてこれらの動きがあれば、そこに気という言葉をつけたのでした。

血とは何か

血は全身に運ばれる水分と栄養のことで、身体の各部に潤いを与え、その形を作る材料となります。

身体の大半は水分でつくられ、それを場として様々な営みが生まれます。そして、その場では様々な栄養が必要であり、その送り手としての、心の臓の力で絶えず全身に配られている赤色の液体、それに血と名を付けました。そして、その血とともに、目には見えない気も一緒に「ながれ」に乗って全身に運ばれている、と理解したのです。

 

因に、身体を構成する水分には津液(しんえき)という名前がつけられています。

津:身体をめぐる水分
液:ある程度固定的にある水分

 

 


「ながれ」の場、経と絡

これら気血は、身体の各場所の必要に応じて、ある通路を通って運ばれると考えられました。その通路は複雑に全身を張り巡らしていますが、それが経絡です。全身を長軸方向に複数走る通路が経脈。また、それを横方向に結ぶような複数の通路が絡脈。そして、さらに経脈は、正経と奇経に区別されました。

正経が本流。

正経とは、全身をくまなく巡る「ながれ」の通路であり、上下にあって頭や体幹と四肢の末端を結んだもので、身体に12対ある循環路です。

奇経とは、体幹にあり、その上下や内外の正経を束ね、結びつけるように流れる経脈を指しました。


ところで、正経は次のような法則で名前がつけられました。

手が末端となる正経が手の経
足が末端となる正経が足の経

身体の内側を足から体幹内部、体幹内部から頚を通って手にいく通路が陰経
身体の外側を手から頭部、頭部から体幹外部を通って足にいく通路が陽経

さらに、それは身体の前中後の3部位にわけられ、つまり、

2(手、足)×2(陰、陽)×3(前中後)の12正経

にまとめられました。

 

そしてそれらは、以下のようにつながりながら全身を一巡するとみました。

手の太陰経→手の陽明経→足の陽明経→足の太陰経→
手の少陰経→手の太陽経→足の太陽経→足の少陰経→
手の厥陰経→手の少陽経→足の少陽経→足の厥陰経

気や血は、この繋がりのなかで「ながれ」るものとなり、この通路である正経に乗って循環し全身に配られると考えたのです。

 

 

全身が「ながれ」でつながる

全身の構造である「かたち」は、この「ながれ」で送られる気や血によって造られ機能が生まれます。つまり、「ながれ」が「かたち」に繋がっているからこそ、「かたち」の構造や機能が維持、推進されているのです。

だから、この「ながれ」の変調が「かたち」の変調となると考えたのは自然なことでした。

さらに、「ながれ」の治療においては正経が大変重視され、その「ながれ」の把握が脈診として発展し、その治療により「ながれ」が整えられたのでした。


そして、「かたち」を整えるため、その「ながれ」に対する治療手段として使われたのが「鍼灸」なのです。